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愛にとって過去とはなにか? (「ゴロウ・デラックス」 11/23)

オープニング。
「吾郎さん、別人になりたいと思った事あります?」(外山さん)
「うーん…一日だけとかね、また戻ってこられれば。」(吾郎)
「やっぱり自分が良いんですね?」(外山さん)
「やっぱり自分が良いね。」と、ちょっとかっこつけてみせる吾郎。
「今夜は別人として生きる人物を通じて愛のかたちを描いた作家さんをお招きしました。」(外山さん)
「ようやく来て下さった。」(吾郎)
吾郎がとても会いたかった作家さんのようです。楽しみですね。

今回のゲストは小説家の平野啓一郎さん。1998年、京大在学中に書いた処女作「日蝕」で第120回芥川賞を受賞。大学生の受賞は石原慎太郎、大江健三郎、村上龍に続き4人目の快挙で「三島由紀夫の再来」「神童」と呼ばれました。最近では「マチネの終わりに」(2016年)が20万部を超える大ヒット。新聞連載中から反響を呼び、完結直後には「マチネロス」という言葉まで生まれたほどです。天才ギタリストと通信社記者との大人の切ない恋愛を描いたこの物語は、来年福山雅治さんと石田ゆり子さんで映画化されます。
今年で作家生活20年。平野さんの作品の魅力に迫ります。

吾郎は林真理子さんと対談した時「マチネの終わりに」を薦められたと話しました。
「“この主人公、吾郎さん良いですよ”って林さんが凄く盛り上がって。それでまあ、映画化されて…福山さんだったんですね(笑)。でも確かにあれはクラシックギターだから…ギターをちゃんと弾ける俳優さんが…うん…。でもちょっとやりたかった。ギター練習したんです。」と吾郎は残念そう(本当はギター弾けるのに…)。
「(その)対談を楽しみにしてて、拝見して。光栄でしたね。」(平野さん)
「有難うございます。嬉しいなあ。」(吾郎)

課題図書 : 「ある男」 平野啓一郎

宮崎県の田舎で暮らす里枝は林業を営む谷口大祐と結婚し、家族4人で幸せな生活を送っていた。しかし夫が伐採中の事故で亡くなってしまう。里枝は夫の一周忌を境に、疎遠だと聞いていた夫の家族と連絡を取る。するとある衝撃の事実が発覚する…!
その衝撃の事実発覚のシーンを外山さんと吾郎で朗読。

大祐の兄・谷口恭一は、手紙を受け取るとすぐに宮崎まで飛んで来た。里枝は仏間に案内して、「どうぞ。」と勧めた。母は少し離れたところから二人の様子を窺っていた。
恭一は、正座をして、しばらく遺影を見ていたあと、
「これは?」と振り返った。
「大祐の遺影はないんですか?」
「……それですけど?」
恭一は、眉間に皺を寄せて、「ハ?」という顔をした。そして、もう一度写真に目を遣って、不審らしく里枝の顔を見上げた。
「これは大祐じゃないですよ。」
「……え?」
恭一は、呆れたような、腹を立てているような眼で、里枝と母を交互に見た。そして、頬を引き攣らせながら笑った。
「……いや、全然わかんない、……ハ?この人が、弟の名を名乗ってたんですか?えっ、谷口大祐、ですよね?」
「そうです。……変わってますか、昔と?」
「いやいや、変わってるとか、そういうんじゃなくて、全然別人ですよ、コレ。」

「……衝撃。」外山さんが囁くような声で言いました。
「ねぇ…。他人に成り代わる設定を使って小説を書こうと思ったきっかけはあったんですか?」(吾郎)
「自分自身が40代になって、人生は1回しかないって事をつくづく考えるようになったんです。普通にしてても他人になりたいと一時的に思う事がありますけど、今の人生がつらかったりすると切実に“違う人生だったら良かったな”と思う事もあるんじゃないか、と。その辺から物語を作り始めたんですけど。」(平野さん)

里枝は夫の正体を知るべく、弁護士の城戸に調査を依頼。大祐の過去を調べる城戸を主人公に物語は進行する。

「弁護士の城戸さんを主人公にした理由はあるんですか?本来ならこっち(大祐)が主人公に…」(吾郎)
「そうですね。この人は一体誰だったんだ?とその人の人生を辿っていく、というのが大きな物語なんですけど、(一体誰なんだ?)とその正体を探っていきながら、段々自分の人生にフィードバックしていって色んな事を考えさせられる人物を設定したかったんです。それは、どこかで人間は他人の人生他人の物語を、生きていく上で必要としているんじゃないか、ということを最近小説を書きながらよく考えていて。」(平野さん)
主人公の城戸は、赤の他人の“ある男”の正体を探っていくうちに自分の人生の見方が変わり自分の悩みに向き合っていく。それとは裏腹に真実を知った里枝はショックを受け、亡き夫への愛を自問する。

愛にとって過去とはなにか?

これは平野さんが「ある男」で一番描きたかったテーマだそうです。
「今回はがテーマです。」(吾郎)「そうですね。」(外山さん)
「(夫に)言われなかったら嫌でしょ。何で言ってくれなかったの?って。」と外山さんは妻の立場を主張しました。
「言ったかも知れないじゃん。次の日に。」(吾郎)「長く生きてるとね。」(外山さん)
二人のやり取りを聞いていた平野さんは
「そんなに綺麗事じゃないんですよね、愛は。続いてくって事が愛にとっては重要で、受け入れがたい事も受け入れて。その時に相手を愛し直すというか、これまで通りの形では続かないけれど、違う形で愛し直す事で続くものもあるんじゃないか、と。」(平野さん)
「なるほどねぇ、そうか…」吾郎は腕組みをしながらしみじみと言いました。
「吾郎さんは、お付き合いしてた方に暗い過去があったとして受け入れられますか?」外山さんの問いに吾郎は一瞬考え込みましたがすぐに目を上げて
「僕はそうですね。ここまでの経験はしてないから分からないけど、どれ位のショックを受けるかとか。でも僕は比較的今を見てると思うし、あまり気にしない。」と答えました。「もちろん過去もあるから今のあなたが好き、というのも間違ってはいないし、過去を知りたくもなるし。男って想像しますよね、子どもの頃どんなだったんだろうとか…。それは思うけど、でもそれが嘘偽りであったとしても、今…でいいかな。」そして平野さんに訊きました。
「未来で過去は変えられますかね?僕は変えられるんじゃないかって。」
「そうですね。その人がどういった人間として生きていくかという事が、未来が過去を変えていく事はあるという気がします。」
吾郎の問いも真っ直ぐ、平野さんの答えも真っ直ぐ。聞いていてとても気持ちの良い対話でした。

近年は話題作を世に送り出す平野さんですが、デビュー当時は文壇の異端児と呼ばれました。その一つがデビューの方法。
「僕は新人賞じゃない形でデビューしたいと思っていて。その時『我々はこういう新人を求める』という企画が『三田文学』という雑誌に載っていて、その編集長に自分の作品を読んでもらいたいという気持ちになって手紙を書いたんです。ただ、そのたった一人の心を動かせないというのは作家になる人間としてどうなんだろうと思って、どうしても僕の書いた小説を読みたくなるような手紙を書いた。」(平野さん)「へぇー!」(吾郎)
「まあ勿論、真面目に自己紹介して、こんな事を考えているという事を一生懸命書いたんですけど、『そこまで言うなら送ってきてください』という話になって。幸いにしてその編集長が僕の作品をすごく評価してくださってデビューになったんです。」(平野さん)
こうしてデビュー作「日蝕」は雑誌「新潮」の巻頭を飾りました。新人の小説が巻頭に載る事は異例だったそうです。「日蝕」の舞台は15世紀末のフランス。神学僧のニコラが錬金術師や両性具有の人造人間など異端の世界に触れるファンタジー小説です。華麗な文体は「三島由紀夫の再来」と評され文壇の注目を集めました。翌1999年には同作で芥川賞を受賞。当時史上最年少の受賞でした。その後、小説の可能性を追求し、視覚的実験作品と呼ぶべき小説を次々と発表します。
「現実がどんどん変わっている中で、文学がそれまでの技法だとその現実を捉えきれなくなっていて。どうやったらそれを上手く書けるか、自分の中で実験しながら探っていた時期なんですね。」(平野さん)
「女の部屋」という小説では、見開き2ページを女性の部屋に見立て、カーテンのある位置にカーテンの描写の文章が、机のある位置に机の描写の文章が来るように配置されています。そして見開きによって文字や文章の配置も違います(とこう書いていても私もどういう事かよく分かりません)。
「(ページによって)全部感覚違うよね。独特な感じになるよね。」(吾郎)
また「氷塊」という作品は喫茶店で偶然視線が合った男子中学生と30代女性の物語ですが、ページの上段は男子中学生の視点、下段は女性の視点で描かれていて2つの別々の物語が並行して進んでいきます。
「2つの物語が別々に進行していて、少年は偶然見かけた女性が死んだと言われている本当の母親ではないかと思いこんでいるんです。で女性の方は不倫をしていて、いつも見かけるあの少年は不倫相手の子でここへ様子を見に来ているんじゃないかと、お互いに勘違いしているんです。その2人が接点のある時だけ文章が共有されてる。結局それぞれ誤解のまますれ違っていくんです。」(平野さん)
「ちょっと最初は迷うけどね。一気に上だけ読んでそれから下を、というのも違うよね。やっぱりずっと(上下を)読まないと。」(吾郎)
「読者も色んな読み方をしていて、最初に上を読んでそれから下を読んで…という人もいるし、女性がこうしている間に少年はどう…とチラチラ見ながら読む人もいますね。」(平野さん)
さらに「閉じ込められた少年」はいじめられた少年が復讐する物語ですが、復讐の場面の文章を中心にして同じ文章が左右対称に綴られています。しかも最初から普通に読んでも違和感なく読めるのです。
「モーツァルトの曲で一枚の楽譜を頭と最後から同時に演奏するとハーモニーになってるというのを見たことがあって。それで小説も最初から読んでいくのと最後から読んでいくのとが同じになって真ん中で交差するものがありえるんじゃないか?と思って。一応(その手法は)テーマとも合致してて、この少年はすごくいじめられててその挙句にいじめっ子を刺しちゃうんです。その思い切った行動の為に、彼は自分のやった事から逃れられなくなっちゃう、記憶の中でも経歴でも。その閉じ込められてる感じを、時間がずっと回り続ける感じで表現しようと。」(平野さん)
「なるほど。」(吾郎)「普通こんな事考えないですよね。」(外山さん)
「僕は自分の中で第2期と呼んでるんですけど。実験をやったので、そこでついていけないという読者もいましたね。でも僕自身にとってはすごく重要な時期だった。」(平野さん)
「第2期は終わって、次は何かやろうかなと考えているんですか?」(外山さん)
「やはり短編を書くと長編のアイディアが纏まることがあるんですね。今しばらく長編を書いているから短編を書きたいですね、実験的なものを。」(平野さん)
「見てみたいね。」(吾郎)

作品によって文体や時代設定も一変させる平野さん。そのインスピレーションの源は何なのでしょうか。
ということで、平野さんの書斎の映像を撮ってきていただきました。書斎の机からは壁一面にびっちり本が並んだ本棚が見えます。
「この圧迫感の中で仕事をしています。」と平野さん。そしてマックス・クリンガーの版画「闘うケンタウロス」が飾られています。
「これを眺めてるとインスピレーションが湧いてくるというか。」
もう一枚のお気に入りは
「畠山直哉さんの『BLAST』という作品です。発破をかけて岩が爆発している写真なんですけど、非常に好きで数年前に購入しました。“破壊的な創造力”を失わないようにという事で刺激的な作品ですね。」
書斎に飾ったお気に入りの版画や写真がインスピレーションを与えてくれるのですね。
「刺激的な作品ですね。」(吾郎)「闘うとか、ボーン(爆発)とか…」(外山さん)
「あんまりそういうキャラじゃないはずなんですけど、言われてみるとそうですね。」と平野さんは笑いました。何か眺めるものがあった方がいいそうです。
「小説に出てくる音楽はご自身でも好きな音楽なんですか?『マチネの終わりに』だったらクラシックギターとか。」(吾郎)
「まあ、自分の知ってる音楽でないとなかなか書けないですけど、音楽ってその人のアイデンティティとすごく関わっていると思うんですよね。だから登場人物のイメージを考えていく時にこの人はどういう音楽を聴くだろう、とは考えますね。」(平野さん)
「なんかさ、知らなかったりするとその場でダウンロードしたり。読みながら結構…。」(吾郎)
「へぇ、これ読みながらダウンロードしてたんだ…」(外山さん)
すると吾郎は「ちょっと見てもらっていい?」とポケットからスマホを取り出して
「これですか?」と画面を平野さんに見せました。どうやら同名異曲だったようですが、「嬉しいです、そんなとこまで(読んでくれて)。」と平野さんはにっこりしました。
吾郎ファンとしては吾郎のスマホが見られて得をした気分でしたね(笑)。

ここで特別企画。「平野さんが吾郎さんを主人公に小説を書くなら?」
「考えて考えて考え込んでしまって、段々分からなくなってきたんですけど(笑)。最初はギャップがある物語がいいと思ったんです。僕、自分自身の憧れもあるんですけど、スイスに『独立時計職人』っているじゃないですか、1年に2個ぐらいすごく複雑な時計を作る人たちが。彼らは本当に『難しい部品を1個設置する』事にその日の全てがかかっているんですよ。『机に噛り付いて』という慣用句がありますけど、本当に彼らは机を噛んで上半身を固定してそーっと部品を置く。とても静かな自然のきれいな所で、その世界の中に吾郎さんがいるイメージが浮かんだんです。1つの見事な時計を静かな環境の中で作ってる。」(平野さん)
「嬉しいなぁ。でも実際の僕はイラチだから『うぅーん!』てなりそう。絶対なるよね。ピンセットとか使えないから。」(吾郎)
「やっぱりね物語はギャップがあった方がいいから、そういう人がやった方がいい。」(平野さん)
「イラチじゃない姿が見られるからいいじゃないですか。」(外山さん)
「やっぱり人がいない場所で何かに没頭している表情を見てみたいですね。」(平野さん)
「嬉しい。いいですね…。じゃあ書きましょう、明日から。」吾郎はすかさず平野さんにおねだりしました。吾郎をも出るに新しい小説が書かれたら嬉しいですね。

AD山田くんの消しゴムはんこは髪いっぱいに平野さんの顔をたくさん押した作品。なかなかの迫力でしたが「それ…似てる?」と吾郎の評価は辛めでした。


時計職人ではないですが、来年になれば炭焼きに没頭する吾郎さんが映画で見られますね!


拍手ありがとうございます

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GORO | コメント(0) | 2018/11/27 23:55
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