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デジタル時代の漫画制作現場 (「ゴロウ・デラックス」 8/3)

「今日はロケです♪」吾郎の第一声がすがすがしいです。
「吾郎さん、2年後に行われることと言えば?」(外山さん)
「2020年ですか?東京オリンピック・パラリンピックですね。僕らはサポーターをさせて頂いていて。あと親善大使も。」吾郎は遠慮がちに言いましたが、これは大事なことです。
すると外山さんは早速本を取り出して
「今日の課題図書はこれ。ヤマザキマリさんの『オリンピア・キュクロス』です。」と紹介しました。
「前回は『テルマエ・ロマエ』の誕生秘話とかイタリアでの生活とか伺いましたけど。」(吾郎)
「今日はヤマザキさんの仕事場にお邪魔させて頂きます!」(外山さん)
「日本なんですね、イタリアではなくて。」(吾郎)

2人は都内某所へ。ベルを押すとヤマザキさんが出迎えて下さいました。
ヤマザキさんの代表作は『テルマエ・ロマエ』(2010年)。古代ローマの浴場設計技師が現代の日本にタイムスリップし、日本の風呂文化に驚きながらもそれを取り入れて古代ローマの風呂を発展させる物語は累計部数900万部の大ヒットになりました。そして現在はご自宅のあるイタリアと仕事場のある東京を往復しながら3本の連載を描く、超多忙な日々を送っています。
そして超多忙といえば、
「今日は大切な日だそうで・・・」(吾郎)
「締切日です。」(ヤマザキさん)(←は?!)
「大丈夫ですか?!」(吾郎)
「大丈夫じゃないけど、まあ・・・考えません!」
そんな大変な日にお邪魔してすみません!(← by ゴロデラスタッフ)

課題図書 : 「オリンピア・キュクロス」 ヤマザキマリ (集英社)

内容を一言で説明すると「オリンピック版『テルマエ・ロマエ』」。オリンピック発祥の地古代ギリシャの青年が1964年の東京にタイムスリップ、日本との文化の違いをヒントにハプニングを解決していく物語です。
その物語が生み出される仕事場はスッキリしてシンプルなお部屋です。
「でも漫画家さんのアトリエっぽくない・・・」(外山さん)
「紙とかペンとか全然無い。」(吾郎)
「もうそれは遅い、というか古いです!」(ヤマザキさん)
「アシスタントの方がいない。」(吾郎)
「いるんですけど一緒に働いてないんですね。皆さん分散してて。最近はアシスタントの方は(自分の)仕事場で私が送ったデータを受け取ってそこで作業する。」(ヤマザキさん)
「あー、データ!」吾郎と外山さんは納得しました。
「なんかね、アシスタントの方みんなと家族同然に暮らしてさ・・・」(吾郎)
「あー、そういうの無いですね。」(ヤマザキさん)
「そういうイメージだったよね、今まで。」(吾郎)
「原稿描いたらスッと渡して、それにペンを入れて・・・。」(ヤマザキさん)
「6人くらいで。」(吾郎)
「ない。」(ヤマザキさん)
ヤマザキさんの漫画の描き方はデジタルなのです。
「『デジタル』って何を使っているんですか?」(吾郎)
「これ」と言いながらヤマザキさんが取り上げたのはiPad。
「ここに私の原稿全部入ってます。」とヤマザキさん。
「これ一つあれば、ソファに寝転んでてもできるし、トイレで用を足しながらでもできる!」
「じゃ、どこに行ってもこれがあれば・・・」(外山さん)
「そう。イタリアと行き来する時に飛行機の中とか空港とか・・・。」(ヤマザキさん)
「最先端だね。」(吾郎)
「楽ちんですよぉ。昔、私は海外にいたから、まず原稿用紙が手に入らないじゃないですか。それを日本から送ってもらってスクリーントーンも何もないから全部送ってもらって描いて、それを郵便とか宅配で送らなきゃいけない。で3日で着くはずが一週間かかったりして、締切バリバリ遅れて到着とか。今は30秒前に送れば良い.。」、(ヤマザキさん)
隣の部屋に編集者が詰めていて出来上がった原稿をひったくるようにして出版社に持って行く、なんて光景とは無縁ですね。
実際に漫画を描いているところを見せて頂きました。保存してある漫画原稿を呼び出して次々にペンを入れ、アシスタントへの指示も青いペンを入れるだけ。あっという間に漫画ができていきます。そして何より凄いのは立ったまま描けること!
「スティーブ・ジョブズすごいね!何か描いてもらいたくない?」と吾郎が素直な感想を言いました。
「じゃあ何か描きましょうか?」ヤマザキさんは立ったままペンを動かしました。iPadの画面に吾郎の顔が出来ていきます。アナログだとトーンを貼らなければいけないところもペンで塗るだけ。更に拡大が出来るので、瞳の中のような小さな所にも細かく線を入れられます。
「だからお年寄りにもお勧めなんですよ。」(ヤマザキさん)
そして完成した絵を見て外山さんは思わず
「カッコイイ!しかも!」と一言(笑)。吾郎は
「『しかも』・・・。見た目で30年やって来たのに・・・。」とショックを隠せない様子です。
「吾郎さんも描いてみたら?」とヤマザキさんに勧められ、吾郎もiPadで外山さんを描くことに挑戦。「描きやすいですね」と嬉しそうにiPadに向かっています。そして出来上がった絵は・・・うん・・・吾郎らしい絵でした。でも外山さんの特徴は捉えていましたね。

ところでヤマザキさんが仕事をする上で欠かせないアイテムがあるそうです。
まず本棚。
日本にいる時の本棚とイタリアの本棚は違うそうで、日本の本棚にはローマに関する本の他手塚治虫さんの作品集も。
「影響を受けた?」(吾郎)
「そうですね。ふとした時に読むと助けになるというかアイディアが湧く。『これは必要の無いコマだ』と教えてくれるんですね。」(ヤマザキさん)
水木しげるさんの「河童の三平」も愛読書です。
「疲れている時には癒やしになり、漫画のネタが湧いてこない時はアイディアを供給してくれる。『手抜きして描いちゃいけない』という気持ちになる。このシンプルな絵と込み入った背景のコントラストが凄い。」(ヤマザキさん)
「ああそうなんだ!そんな風に見てなかった。」(吾郎)
それから隣の部屋にもヤマザキさんの必須アイテムが。
それは出窓に並べられた壺絵。今回の課題図書「オリンピア・キュクロス」の主人公は壺絵師見習いなのです。
「ギリシャというと皆さん壺を思い浮かべると思うんですが、この壺、すごい需要があったんですよ!今でいえば漫画家、一昔前なら浮世絵師みたいなもの。」(ヤマザキさん)
「何かを伝える手段ですか?」(吾郎)
「そう、情報が全部この中に盛り込まれてます。当時の流行、運動、恋愛ストーリー・・・全部壺絵に描かれてる。この壺絵があるから私たちは今ギリシャの歴史を知ることが出来るんです。」(ヤマザキさん)
「へぇ・・・」と感心する2人に、壺絵がいかに現代の漫画に近いかを示す資料をヤマザキさんが本棚から持ってきました。
「衝撃のやつ!マツゲが生えてて、まるで少女漫画。池田理代子先生の『ベルサイユのばら』みたいな。」(ヤマザキさん)
「ほんとだ!!」(外山さん)
「日本人にとって二次元の絵ってこういうイメージだと思うんですが、凄くそれにギリシャの壺絵は近い。ギリシャのことはせっかくオリンピックがあるから知って良いんじゃないかな。」(ヤマザキさん)
「今回は『オリンピック』がテーマなんですね。」(吾郎)
「前回の『テルマエ・ロマエ』はお風呂がコンセプトだったんですけど今回は運動。もうじき東京でもオリンピックがあるし、ローマ人もギリシャのオリンピックに非常に熱意を持っていた人たちだったので。ローマから辿っていくとギリシャにたどり着くんですね。」(ヤマザキさん)
古代ギリシャのオリンピックの時代は「テルマエ・ロマエ」よりも500年くらい前だそうです。
「ギリシャも好きなんですか?」(吾郎)
「別に好きでも何でも無い!」とヤマザキさんはキッパリ。「でも、古代ローマ人というのはギリシャにもの凄い憧れてて、『ギリシャには勝てない』というコンプレックスがあったんです。だから古代ローマの中で知的な職業・・・例えば医者とか学校の先生とかは・・・全員ギリシャ人。ギリシャというのはそういう所なんです。(古代ギリシャは)精神性の豊かさを養う土壌であって、ローマは今のアメリカみたいな資本主義(の国)。」
「ああ、そうなんだ。」(吾郎)
「そんな時にしっかりとした考え方、しっかりとした哲学を持った人間を雇いたいと思ったら全員ギリシャ人になる。」(ヤマザキさん)
「へぇ、アメリカって(例えは)分かりやすいですね。ヨーロッパ文化への憧れがあったりとか。」(吾郎)
「そう!同じです。」(ヤマザキさん)
今から約2400年前、日本の弥生時代の頃から繁栄していた古代ギリシャ。しかしなぜ古代ギリシャでオリンピックが誕生したのでしょうか?
「ギリシャというのは小さい島で出来てるんですね。その島一つ一つが自治国家で、日本の戦国時代じゃないけど結構戦が絶え間なく行われていたんです。戦というのは自分たちの国にこれ以上影響を与えないで欲しいという理由でやるんですけど、戦があまりにも多いと死者も当然出る。どうしたら良いだろうということで、4年に1回くらいだけ戦争を完全に止める年をつくる。で、戦争の代わりに運動競技を神に捧げるという意味で奉仕する。その間は一切戦争無し、そういう発想だったんです。」(ヤマザキさん)
古代ギリシャ人って本当に知恵があったんですね。すごい!
ここで朗読タイム。今回はヤマザキさんとAD山田くん改めヤマダリオスくんも加わって4人で朗読します。ヤマダリオスくんは勿論、古代ギリシャ人のコスプレです。それを見るとヤマザキさんは
「古代ギリシャ人は『裸が一番美しい』という概念を持っているので、素っ裸で・・・」でムチャ振りしました。
「裸は一番神聖で崇高なものなんです。だからこの表紙を見た人から『ヤマザキさん、男の裸を描くのが好きなのね』と言われるんですけど、仕方ないんです。史実上皆さん裸で競技されてたし。」
さて「オリンピア・キュクロス」のストーリーは・・・
主人公・デメトリウスは運動能力はずば抜けているが争い事が嫌い。しかし村同士のいざこざを解決するための競技会の選手に選ばれてしまい思い悩む。そんな時なぜか1964年の東京にタイムスリップし、そこで出会った老人と町の運動会に行くことになる。

(前略)
―――にしても
皆笑顔で誰もが幸せそうだ
競技会なのになんなんだろう この開放感は・・・・・・!?
勝たなければ意味もなく
負けた後ろめたさをひきずる私達の競技会とは
明らかに何かが違う・・・

さらにスプーンに卵を乗せて走るレースで、早いだけでは勝てず結局老人が優勝したことにデメトリウスは衝撃を受けます。この後古代ギリシャに無事戻ったデメトリウスは選手も観客も楽しめる競技を提案し、運動の発展に貢献したのです。
「面白かった。ヤマザキさん、すごい演じ分けて下さって・・・。」(吾郎)
「私たぶんね、台詞を書きながら心の声が演技してるんだと思う。」(ヤマザキさん)
「そう思いました。」(吾郎)
ヤマザキさんが生き生きと朗読したのが印象的でした。

そして、舞台を現在の日本でなく「1964年」にした理由は・・・
「この時の日本はまだ戦争の傷跡から完全に立ち直ってない。で、高度経済成長期にさしかかった時ですね、国としてどう復興していこうかという。だからせっかくタイムスリップするなら人間にまだ人情がある頃・・・隣に突然外国人が現れても・・・今だったらみんな引くとかシカトするとかするけど、1964年だったらきっと思いがけないことに対しての免疫がついていたと思うんです、戦争を経験した人たちって。もう信じられないことを経験してきたわけだから、そこにいきなり2400年前のギリシャ人が現れても拒絶はしないんじゃないかな、と。」(ヤマザキさん)
2400年前の古代ギリシャだけでなく1964年当時の日本を懐古して再現してみたかったのだそうです。(ただ、当時の日本人はそんなに外国人を見慣れていなかったかも知れませんが・・・。)

最後にヤマザキさんの必須アイテムをもう一つ。
「この辺にあるんですけど。」とヤマザキさんはソファの後ろに手を伸ばし、出窓に並んだ昆虫の標本箱を取りました。
「やっぱり?さっきから気になってたんですよ!」吾郎が大きな声を上げました。背中に毛が生えた珍しい昆虫です。
「すごくないですか?南アフリカにしかいないんです。甲虫は裏側のメカニズムとかが素晴らしいんですよ!」ヤマザキさんの声が弾んでいます。「同じ生き物とは思えない概念の中で生きているんですよ。見ているだけで想像力がメキメキと出てくる!」
「そうなんですね!」吾郎が楽しそうに相づちを打つ一方、外山さんはやや戸惑い気味に
「(虫を)取り寄せるんですか?」と訊きました。
「さすがに南アフリカまでは行けないのでネットで見つけて。」(ヤマザキさん)
「見つけて、これ可愛い!とかこれカッコイイ!とかって思って・・・」(外山さん)「ポチリ!」(ヤマザキさん)「えー!」(外山さん)
「標本って(自分で)作ってるんですか?」(吾郎)
「ポチったのが送られてきますよね。そしたらこういう箱を買ってきて自分で・・・」(ヤマザキさん)
「ああ、ポチったのは死骸(!)が送られてくるわけですね。額装されてくるわけじゃなくて。」(吾郎)
「そうです、だってこれ、絵画より好きですもん!」
ヤマザキさんは子どもの頃から昆虫が大好きで、5歳の時に買った昆虫図鑑を今も大事にしています。お気に入りの昆虫には丸をつけたりリボンをつけたり。夢中だったことが窺えます。
「私はこの図鑑の絵を描く人になりたかった。」とヤマザキさん。
「あ、そうなんですか、漫画家さんよりも・・・」(吾郎)
「漫画家になってなかったら虫を研究する人とか・・・。」(ヤマザキさん)
そういえばこの日ヤマザキさんが着ていたのは白地にハエ(?)が描かれた昆虫Tシャツなのでした。


拍手ありがとうございます
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GORO | コメント(0) | 2018/08/08 08:19
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