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「広島に原爆を落とす日」の思い出

「広島に原爆を落とす日」で吾郎と共演した劇団☆新感線の俳優こぐれ修さん(@Osamuman)が、twitterで《吾郎がなしえた偉業》と題して「ひろげん」の裏話を連載ツィートして下さっています。こぐれさんは現在舞台稽古でお忙しい中、当時の吾郎がどれだけの情熱を傾けてこの作品に取り組んだかを語って下さっています。またこぐれさんのブログにも「ひろげん」のこぼれ話をまとめて下さっているので、そちらも読んでみて下さい。
(こぐれさんのブログ「吾郎がなし得た偉業」へはサイドバーのリンクから行けます。)

こぐれさんのツィートを読んでいたらとても懐かしくなったので、私なりに「ひろげん」の思い出をここに上げてみようと思います。とはいえ、当時全くメモを取らなかったので(今では信じられない事ですが)、うろ覚えかつ断片的になってしまいそうですが、頑張ってみます。


(写真左上から97年のパンフ、チケット、案内はがき、チラシ。左下から98年のパンフ、案内はがき、チケット)


私が観劇したのは、
97年6月24日(火)2:00PM 開演 東京・紀伊國屋サザンシアター
98年5月26日(火)2:00PM 開演 東京・PARCO劇場(再演)
です。どちらもチケットを取るのが大変だったという記憶があります。というのもこれはどちらも追加公演だったからです。当時私の住んでいた街にはチケットぴあのお店があり、朝早くから並びましたが撃沈し、辛うじて追加公演のチケットが取れたのでした。

お芝居を見る時原作を読んで予習をしていくかいかないかは人によって分かれると思いますが、私は自分の目で見る第一印象を大事にしたいので原則予習はしません。でもつかさんのお芝居は全く見た事がなく、独特の世界観があると聞いていたので、小説「広島に原爆を落とす日」を読みました。小説版と舞台版では登場人物もストーリーも異なりますが、つかさんの一種屈折した独特の世界観には触れる事が出来たと思います。

97年の公演は「紀伊國屋サザンシアターオープニングスペシャル」と題されていました(実際には96年10月にオープンしていますが)。新しい劇場で明るく心地良かったのを覚えています。劇場入り口からズラリと並んだ沢山のお花を見て、「これから吾郎のお芝居を見るんだ」と気持ちが高ぶりました。

幕が開くと舞台下手に白い軍服を着たヒロイン夏枝(緒川たまきさん)がすっくと立っていました。そして舞台上手には部下の特攻隊員たち。彼らは今まで秘めてきた夏枝への想いを口々に叫んで出撃して行きます。部下たちが去るとそこへやはり白い軍服姿のディープ山崎が現れる…。
白い軍服姿の吾郎と緒川たまきさんが並んで立っただけで圧倒的な存在感がありました。(これから何かが起こる!)と観客に期待させます。そしてその期待通り、信じられない程のスピードでお芝居は突っ走ります。
山崎と夏枝の屈折した愛の表現、独裁者ヒットラーの狂気と孤独。男女の純粋な愛すら戦争の遂行と国家の維持の為に利用する国家権力の不気味さ。それらが複雑に絡み合って最後にディープ山崎は広島への原爆投下の任務を負わされます。その時山崎が願ったのは、夏枝に自分の故郷広島に行って欲しい、という事。何十万人の人を一瞬にして殺戮する任務を正気で行うには、自分の一番愛する人の命を引き換えにしなければ出来ない、というのです。
途中コミカルなシーンを挟みながらも、戦争はここまで人間を踏みにじるものだと強烈に訴えるお芝居で、見終わった時は頭がボーッとして、何をどう考えたらよいか分かりませんでした。全速力でラストまで連れて行かれた感じです。
そんな中、緒川たまきさんの立ち姿の美しさ(これほど立ち姿の美しい女優さんはめったにいません)と吾郎の情念のこもったセリフが印象に残りました。吾郎はまるで全身でセリフを叫んでいるようでした。

98年の再演ではこの作品が単なるお芝居ではなく、現実とシンクロした演劇であると痛感しました。広島でも上演される事は最初から発表されていましたが、東京公演の最中にインドとパキスタンが核実験を行ったからです。ですから「ひろげん」の再演は単にお芝居としてだけでなく社会的なニュースとしても注目されました。
5月26日は東京公演最終日。私が観た昼の部は追加公演でしたが、実際にはいわゆる東京の楽前でした。
私が驚いたのは、吾郎の発声がとても良くなった事。吾郎は元々滑舌があまり良くありませんが、再演ではセリフの低音部がきれいに響いてよく通っていました。山崎と夏枝の屈折した愛の表現の裏に深い悲しみが感じられて1年の間にとても良いお芝居になっていた事が分かりました。
再演では山崎と夏枝のキスシーンが加わりました。2階キスをして3回目ははコミカルになって終わるのですが、クライマックスに向かう緊迫した空気を和らげる美しい愛情表現でウットリしました。
そしてラストシーン。山崎の部下春田が夏枝に、なぜ広島へ行かなかったのかと詰問して去った後、山崎が夏枝の前に現れる…。やっと結ばれるかと思った瞬間、二人はすれ違い、同時に照明が落ちる。救いのない結末ですが、原爆を落とされる側にも落とす側にも救いはない、とつかさんは言いたかったのだと思いました。


3時間以上の長い芝居が終わり、疾走感にあふれた役者たちのエネルギーに圧倒されて、私は熱に浮かされたようにロビーに出てきました。舞台を見ると普段は感じた事のない感情を揺さぶられますが、幕が下りると徐々に現実に戻っていきます。少しさびしいですがホッとする瞬間でもあります。しかしこの日はそれでは終わらなかったのです。

出口に向かって歩いていると、演出のいのうえひでのりさんがロビーに出て来られました。そしてロビーにいる人と話し始めたのです。最初は関係者の方だったかもしれませんが、見ていると周りにいる人達と次々とお話しています。(もしかしたら話しかけていいのかも知れない)と思い、いのうえさんに近づいて行って、順番を待っていのうえさんに御挨拶しました。
つかさんのお芝居を初めて見てパワーに圧倒された事や、去年に比べ吾郎の低音の声がきれいに響いて良かった事など感想を話しました。吾郎についていのうえさんは「吾郎は頑張りましたね。」と仰って下さったので嬉しかったです。
そして一番分からなかったラストシーンについて思い切って質問してみました。初演と再演とでは、見た印象が全然違ったからです。
「初演で見た時は夏枝は広島へ行かずに生き残り山崎が原爆投下後に死んだと思ったのですが、再演で見た時は夏枝も山崎も死んでいる様に思えました。」と私が話すと、いのうえさんは「勿論どちらの解釈でもいいんですが、もう一つ説があって、」とこう話して下さいました。
「夏枝は広島へ行って死にディープ山崎は生き残って気が狂った、という説なんです。」
そう言われると私も納得できる所がありました。
「確かに、出て来た山崎はふらふら歩き回ったり遠くを見たりして、夏枝に『山崎、山崎』と呼びかけられても気が付かない。死んでも夏枝に会いたくて魂がやって来た、という感じではないですね。」
「そうですね。だからディープ山崎は気が狂ったという解釈もあるみたいです。」
「なるほど…。私はその解釈は思いつかなかったのですが、ディープ山崎発狂説に立てばあのラストシーンは辻褄が合いますね。」私は文字通り目から鱗が落ちる思いでした。
最後は「今夜の公演が終わったらいよいよ広島ですね、頑張って下さい。」というような御挨拶をして別れた様に思います(記憶が曖昧ですみません)。


演出家の方と直接お話が出来るなんて思ってもいなかったので、まさしく夢の様なひと時でした。
舞台を見る楽しさが何倍にもなった日でした。
いのうえさん、その節は本当に有難うございました。


拍手ありがとうございます





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コメント

No title

「広島に原爆を落とす日」のお話大変興味深く読ませていただきました。
私は吾郎ファン暦10年くらいなので、もちろんこの舞台は見ていません。
吾郎の歴史のなかでとても大きな存在のこの舞台は、いくら見たくてもどうにもなりません。
パンフやちらしを手にいれて、なんとか雰囲気だけでも感じとろうとしましたが、はちミツさんのお話で、舞台のイメージが浮かんできました。
あの若さで、つかさんの難しい舞台で膨大なセリフをおぼえ、難解な役をやりきった吾郎は、本当にすばらしいです。
そして、いのうえさんと直接お話したなんて、よかったですね。
とっさにいろいろするどい質問ができてしまうなんて尊敬です(^^)

広島に原爆を落とす日

素晴らしい記憶力ですね。実際に出演していた自分でも、ここまでの記憶は残ってないです。あと、あのラブシーンは、つかさんがいのうえにリクエストした演出です。その事は、またいつか「吾郎がなし得た偉業」でツイしたいと思ってます。それと新感線です。(^^)

Re: No title

>星くずさん
コメント有難うございます。
「広島に原爆を落とす日」の97年の初演からもう15年経つんですね。この後吾郎ファンになった方や当時のファンでもチケットが取れなかった方は観られなかったので、2年続けて観られた私は本当に幸運だったと思います。
今ではパンフやチラシも大変貴重な資料です。大切にしなければ…。
当時はまだ高い声がひっくり返ったりして、技術的にはまだまだだったと思いますが、それ以上に役になりきった吾郎のエネルギーに圧倒された事を覚えています。
いのうえさんとお話しできたのは本当に思いがけなくて嬉しかったです。嬉しさのあまり舞い上がって、思いつきで色々喋ってしまい今思い返すとと少し恥ずかしいですが(笑)。

Re: 広島に原爆を落とす日

>こぐれさん
お稽古でお忙しい中、お越し下さっただけでなくコメントも下さり本当に有難うございます。
「広島~」を見た当時はネットをやっていなくて、あのお芝居の強烈な印象や、いのうえさんとお話しできた嬉しさを人に話す機会がなかなかありませんでした。でもこぐれさんのツィートを読んでちょうど良い機会だと思い、出来る限り思い出して書きました。
この文章が書けたのはこぐれさんのお陰です。どうも有り難うございます。
これからもお時間のある時に、「吾郎がなし得た偉業」をお聞かせ下さい。楽しみにしております。
それから、劇団名を間違えてしまい申し訳ありませんでした。「劇団☆新感線」ですね^^;。訂正いたしました。

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