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平成最後の合評会スペシャル (「ゴロウ・デラックス」 2/15、2/22)

  • 2019/02/27(水) 11:54:31

番組恒例、芥川賞・直木賞受賞作家SP。今回も盛りだくさんの内容で2週にわたって放送されました。

【前編】
第160回芥川賞受賞者、上田岳弘さん、町屋良平さん、直木賞受賞者真藤順丈さんがスタジオにそろい踏み。このお三方は平成最後の受賞者ということになります。
まずはこれも恒例、吾郎からの花束贈呈です。お三方にそれぞれ違う花束を渡しながら
「俺はこっちの方が良かった、とかありました?」と笑わせました。

課題図書 : 「ニムロッド」 上田岳弘 (講談社)
        「1R1分34秒」 町屋良平 (新潮社)
        「宝島」 真藤順丈 (講談社)

さて恒例の質問から。
「受賞されたとき3人が何をされてたのか?」(吾郎)
「新潮社の近くのカジュアルなバーで静かに・・・。」(町屋さん)
「僕らが一番想像するパターンですね。」(吾郎)と思いきや、
「店長さんが『ドラゴンボールZ』が好きらしくて『CHA-LA HEAD CHA-LA』という曲をかけていて、“へっちゃら”と言ってるからへっちゃらなんだ、と・・・。」(町屋さん)
「助けられたんですね。“掴もうぜドラゴンボール”だったらちょっと焦るよね。」(吾郎)
一方、上田さんは
「歌舞伎を観ながら待ってましたね。」
「歌舞伎どころじゃなかったんじゃ?」(吾郎)
「選考を待つのが嫌い、というか辛くて。(ノミネートが)3回目だったので、1回目2回目は待ち会をちゃんとやったけど、3回目になると“もう待ってらんねぇな”と。」(上田さん)
「僕は上田さん言うところの初回、初ノミネートだったので、20~30人集まって待ち会をやってみよう!と。そこに携帯電話が鳴って『受賞です』と言われてワーッとなりましたね。」(真藤さん)。
一番「らしい」受賞風景だったのですね。

上田さんはIT会社役員をしながら、町屋さんは営業の仕事をしながら小説を書いています。平日は会社員をしているのがお二人の共通点です。
ここからそれぞれの作品を紹介。今回は3人のゲストにお互いの作品を読んできて頂いたので、その感想にも注目です(←芥川賞・直木賞受賞作家がお互いの作品を読んできて感想を述べ合う、こんな贅沢な合評会を開けるのは「ゴロウ・デラックス」だけでしょう!)
町屋さんの「1R1分34秒」。主人公はプロボクサーの「ぼく」。デビュー以来負け越しが続きトレーナーにも見捨てられたが風変わりなトレーナー「うめきち」と出会い成長していく青春小説です。芥川賞選考委員の奥泉光さんは
「トレーニングの場面を徹底して描き込んでいく筆の迫力が一番評価された。実際のボクサーがこれを読んで『全く嘘だ』と仮に言われたとしても、“この作家に騙されても良い”と思わせるだけの言葉の力がこの作品にはあった。」
と絶賛しました。
その臨場感あふれるボクシングの試合シーンを吾郎が朗読。

ほんの数センチの差とはいえ、おそらく前二人の青志くんの対戦相手よりリーチの短い自分は、らくな距離に身をおいていると自分以上に相手のスイートスポットに入ってしまい、ちょうどジャブの力のこもる場所に目が位置してしまう。
肘から先で視界を遮られるような効果のジャブをもらうということは、プロとしてはあってはならない距離感覚で闘っている。
一ラウンドはまずその対応であたまがさーっと熱くなってしまい、結果的にわるくはない作戦ではあったのだがひたすら距離を潰してガチャガチャ打ち合った。
こんなボクシングばかりしていると、六回戦にあがったあとに未来はない。

町屋さんは目をキラキラと輝かせて朗読を聴いていました。そして、
「今熱のこもった声で朗読して頂くと書いた時以上に頭の中に試合の光景が浮かんできて不思議な気持ちになりました。」とおっしゃいました。
町屋さん自身20代中盤くらいからジムに通いボクシング歴は10年以上、一時期はプロのライセンスを取りたいと思っていたそうです。だからここまで「徹底された書き方」が出来たのですね。町屋さんにとってボクシングをやっていることは「足場」だそう。
「小説を書く時って現実から逸脱した所に手を伸ばさなければいけないときが来るんですけど、足場があったから手を伸ばしやすかったと言う事はあります。」

ここで上田さんに「1R1分34秒」の感想をうかがいました。
「初っぱなが好きです。(試合相手を)調べに調べて親友になってしまうところ。ボクシング小説として読み始めると最初脱臼する感じ。それが上手いな、と。」
今までの小説ならば最後にお互いの健闘をたたえ合って親友になるはずですが、この小説では逆なのです。
「ちょっと違う小説が始まるぞって感じはあった。」(吾郎)

今回お三方の執筆部屋と本棚を撮影してきて頂きました。
町屋さんの執筆場所はなんとお風呂!お風呂の蓋が机代わりです。
「原稿のチェックもお風呂で・・・」(町屋さん)
「うそお!」(吾郎)「紙じゃないですか?」(真藤さん)
小説を書くときには身構えがちですが、お風呂だと気合いが入りすぎない状態で書けるからいいのだそうです。
そして執筆道具は基本スマートフォン。なるべく日常の延長線上で書くようにしている、と町屋さん。スマホだと時間がかかりそうに思えますが「1R1分34秒」の初稿は2週間足らずで書きました。
「そういう勢いもこの小説の持ち味だったり、僕らが得る感覚だったりするんですよね。」(吾郎)
「はい、最初の原稿がとても大事だと思うので、勢いでしっかり書きました。」(町屋さん)

続いて上田岳弘さんの「ニムロッド」(芥川賞受賞作)を紹介。
主人公はIT企業に勤める中本哲史。社長命令で仮想通貨「ビットコイン」の取引データを記録する部署に異動になり、業務をこなす傍ら心に傷を抱えたキャリアウーマンの恋人紀子と鬱病を抱え小説家の夢を諦めた元同僚荷室仁(通常ニムロッド)との交流を通じ、効率化された社会に翻弄される人間の悲哀に満ちた姿を描いた作品です。
「3人の距離感がいい。切ないんだよね。『ニムロッド』と『ダメな飛行機』の・・・。」(吾郎)
作品を書いたきっかけは、2017年末のビットコイン高騰だったそうです。上田さんが興味を持ち調べると、提唱者は“ナカモト・サトシ”という日本名の人物でした。
「え、日本人だったの?と思うじゃないですか。でも実はそうではなくて、何人かも分からない。そこに興味を持った。もう一つ大きなモチーフとして『ダメな飛行機コレクション』というのがあるんですけど。」
『ダメな飛行機コレクション』とは、その時代の最先端技術を用いて開発されたもののろくに飛びもせず頓挫した飛行機を紹介するインターネット上に実在するまとめサイトの一つです。その中で紹介されていた「航空特攻兵器 桜花」という飛行機が作品を書くきっかけになりました。これはパイロットが生還できないように設計された飛行機で兵器としてみれば高性能の誘導ミサイルです。
「第二次大戦中に日本で作られた特攻機で、提唱者が太田正一さんと言うんですけど、戦後叩かれたわけです。で自殺を試みるんですけど死にきれず、名前を捨てて生きていく事を選んだ。ビットコインを提唱したサトシ・ナカモトと桜花を提唱した名無しの人が背中合わせに見えてきて、この2つのモチーフで何か書けないかな、と思いました。」(上田さん)
どういう作品になるか分からなかったけれど繋がっていくんじゃないか?という直感があったといいます。
「そこにニムロッドさんがいて、あの小説の世界があって、『バベルの塔』・・・」(吾郎)
「最初からそれがどういう事を意味しているのか分からなくて、書きながら探っていく感じでしたね。」(上田さん)
上田さんの作品について芥川賞選考委員の奥泉さんは
「大変完成度が高い。『バベルの塔』の神話的なイメージと「ビットコイン」「ダメな飛行機」・・・人類が積み重ねてきた上手く使えない飛行機を上手く組み合わせることによって1つの小説世界を編み上げた手際が高く評価された。」
と評しました。
ここで主人公中本とニムロッドとの会話部分を外山さんが朗読。普通の小説ではあり得ないほどの長台詞なので一部を紹介します。

「世界中で、無数のコンピューターが、君のロジックに則って稼働しているのは何も資産が欲しいだけじゃない。
社長の言う通り、一種のシステムサポートなんだ。あの社長もたまにはまともなことを言うんだな。
(中略)
書いているのは単なる取引履歴だけど、実際にそれで価値が生み出され、日本円やドルにもなる。
つまり、資金となって、人や世の中を動かすことができる。
僕は思うんだが、それって小説みたいじゃないか。僕たちがここにこうして、ちゃんと存在することを担保するために我々は言葉の並べ替えを続ける。
(中略)
世界中にいる無数の名無したちの手が伸びてくるから成り立っている。
その手がなくなってしまえば、君が掘り出した大切な変則Bは君の手元から真っ逆さまに、どこまでも下に落ちていく――」

「すごい長台詞ですよね。」(吾郎)「長台詞好き?」(真藤さん)
「長台詞好き」と上田さん。戯曲が好きでシェイクスピアを読むので、そのきれいな言葉遣いを小説でやってみたかったそうです。
ニムロッドが小説家を諦めたという設定には、賞の最終選考まで行って落ちたご自身の経験が反映されています。それを聞いて「自分も似た経験があるので」(町屋さん)「ニムロッド堪らないですね」(真藤さん)とお二人も共感されていました。
真藤さんに「ニムロッド」の感想を伺うと、
「誰も見たことのない、読んだことのない世界を模索している。それは“エンタメ作家”も同じで、他の人が書いてない物を探していく。」と題材の斬新な組み合わせに共感していました。

毎日決まった時間に執筆するという上田さんの執筆部屋はシンプルで、ストーブと机とパソコンしかありません。
「なにもない」(真藤さん)「かっこいい」(町屋さん)
こだわりはキーボード。パソコンは何台かあるのですがキーボードは同じ物を使っています。
「同じキータッチじゃないと進まない」と上田さんが言うと
「キータッチは大事ですよ」と真藤さんも同意。真藤さんは電気屋さんでずっとキーボードを叩いてタッチを確かめるそうです。
「スマホで書くなんて信じられない」と上田さんが言えば
「キータッチとかよくわかんない」と町屋さんが主張したので思わずみんな笑いました。町屋さんも時々パソコンを使うのですが、
「軽さしか考えてない。パソコンも風呂に持ち込んで書いたりするので。」
(←感電しないように気をつけて下さいね!)
上田さんの執筆時間は朝5時半から7時半まで。その後朝食を食べ出勤します。
「そうか、会社に行くんだもんね。」(吾郎)
「朝、規則正しく書いて、会社で過ごすうちに、“ちょっと違ったかも”って思う時ってありますか?」(町屋さん)
「僕、あんまり読み返さないんですよ。ずうっと書いていって、200枚の原稿だったら20%くらい多めに書く。」(上田さん)
「何となく20%?」(町屋さん)
「20%ですね。で、削っていくとちょうどになる。修正と言うよりは改稿していくタイプ。とにかく書きたい衝動を大事にしていく。」(上田さん)
「20%って大体決まっているのが面白いですね。」(町屋さん)
作家さん同士で執筆方法を話すなんてなかなか聞ける機会はありません。貴重な番組ですね。


【後編】
まず3人の近況をお聞きしました。
「小説家でやっていくのは正直難しい。でも芥川賞を受賞すると、周りが『頑張って』『おめでとう』と言ってくれる。周りの人が素直に喜んでくれるのが嬉しい。」(町屋さん)
「僕は、今回初めて地元の高校に横断幕が・・・」というのは上田さん。色々なところから祝福されますね。
「僕の場合は開店休業というか、賞からお声がかからなかったり重版がかからなかったりという期間が長かったので、それでもずっと伴走してくれた編集者の方々が本当に喜んでくれて。それが一番良かったです。」そう話す真藤さんは本当に良い笑顔をしていました。
しかしそういう真藤さんは2008年、ホラー、エンタメ、SF、ライトノベルと4分野の文学賞に入選して華々しく作家デビューした方なのです。
「すごいデビューじゃないですか。」(吾郎)
「いろんなジャンルに出して。純文学にも出したことありますよ。」(真藤さん)
「1年に4作書けるのがすごい。」(上田さん)
「でもこれ、全部同じ年に書いたわけじゃないですよね?」(吾郎)
「同じ年です。」(真藤さん)
「これ、どのくらいの期間で書いてるんですか?」(外山さん)
「ひと月に一本書いて、12ヶ月で12作出そう、と。」(真藤さん)
「すごすぎますね。」(町屋さん)
「それで1年やったんですか?」(外山さん)
「途中でこれらの賞が決まって、編集者に『出さなくて良いです』と。だから12本は出してないんですけど。」(真藤さん)
なんと、1本目2本目3本目4本目と続けて賞を取ったそうで、これには町屋さんも上田さんも「すごい!」と驚いていました。
「でも、それまでずっと一次選考も通らなかったんです。これをやるようになって最終選考に残り始めた。」(真藤さん)
「1ヶ月に1本って、町屋さんどうですか?」(外山さん)
「僕なら3ヶ月で倒れますね(笑)。」(町屋さん)

真藤さんの「宝島」は戦後・アメリカ統治下の沖縄が舞台。米軍基地から食料や薬などの物資を盗み出す「戦果アギヤー」という若者の集団が主人公です。
「すごい時代なんだね。」吾郎がしみじみと言いました。
「沖縄の戦後史ということで敷居が高くなるかなと思ったんですが、エンタメ小説でもあるので・・・。」(真藤さん)
「でも最後泣いちゃう感じだった。」(外山さん)「切なかったね。」(吾郎)
直木賞選考委員の林真理子さんは
「平成最後の直木賞に相応しい素晴らしい作品を選ぶことが出来たと思います。沖縄への愛をものすごく感じまして、よく東京生まれ東京育ちの方がこれだけ沖縄のことを調べて、沖縄の人のメンタリティーを身につけて、これだけリアリティを持って書けたなと私は感嘆しました。」
と絶賛しました。
「沖縄生まれかと思った」と外山さんと吾郎は口々に言いましたが、真藤さんは「沖縄にルーツはなく親戚もいない」そう。沖縄の外の人間が書くことで出てくる意味もあり、沖縄の人には書けない切り口とか普遍性の取り出し方もある、と真藤さんは言います。
とはいうものの、途中2年間書けない時期もありました。
「沖縄にルーツを持たない自分が書いてもいいのか。今の問題とも繋がっているので、自分の中で覚悟が固まりきってない時期は書けなかったです。」
と真藤さんは葛藤があった事を明かしました。
「史実なんですよね?飛行機が学校に墜落してしまったりとか毒ガスの事とか。」(吾郎)
「毒ガスはびっくりしました。知らなかったです。」(外山さん)
「作中で起こってる事件はほぼ全部史実です。」(真藤さん)「暴動とかね。」(吾郎)
「沖縄のことは全く知られていない。『戦果アギヤー』も・・・勿論教科書に載るような存在ではないので。」(真藤さん)
「なんで知らないんだろう。」(吾郎)
「教科書からこぼれ落ちる所なんでしょうね、存在的に。」(真藤さん)
1970年のコザ暴動など実際に起きた事件を基に構成し、戦後の沖縄を描いた「宝島」。上田さんと町屋さんは、真藤さんの取材方法に興味津々です。
「情報量がすごい。どのくらい取材したんですか?」(上田さん)
「資料であたりをつけてからフィールドワークするんです。現地の路地をうろついたり、現地の図書館へ行って当たりをつけておいた新聞の縮刷版を読んだり。」(真藤さん)
「お年寄りにお話をうかがったりとか?」(外山さん)
「そうですね。沖縄の方は酒場とかで話しててもゆんたく(お喋り)好きなので、色々聞かせてくれるんです。で、ちょっと眉唾物の話も出てくるんですけど、後で調べると本当にそういうスパイ組織があったことが分かったり。」(真藤さん)
「戦果アギヤー」は実在した組織で、メンバーはその後経済界や裏組織に流れていったと言われています。一方物語に登場する「アギヤー狩り」(戦果アギヤーが奪った物資を横取りする人たち)は真藤さんが創作した架空の集団。史実と虚構が絶妙に混じり合っているのは小説だから出来ることだ、と真藤さん。
「僕はお二人みたいに書きながらお話を作っていくことが出来ないんです。“エンタメ”と“純文学”の違いだと思うんですけど、プロットを作る方が多いですね。」(真藤さん)
「純文では言葉のドライブ感で引っ張っていくのが最近の主流ですよね。」(上田さん)
「最近は両方をやっている方も出てきて、その境目はあまり意味がなくなってる感じもしますけど・・・。」(真藤さん)
「真藤さんも純文学を以前はやられてたんですよね?」(吾郎)
「ええ、でもそれはデビュー前で、今はエンタメ側の人間だと思ってますけど、お二人の作品を読むと文体に影響されたり(笑)。文章の力で言えばやはり純文学は強い。町屋さんの作品は影響されます、文体がね。洗練されたそぎ落としていく文章ですね。」(真藤さん)

町屋さんに「宝島」の感想を伺いました。
「長い物語を書いていく中で僕が面白いと思ったのは、こういう長い物語を書くと文章の量も長くなってくるので、風景の描写で文章に緩みが出たりとかは割としょうがなかったりするんですけど、『宝島』に関してはむしろ、緊迫した場面に行くにつれて沖縄の土地感の描写が定型に収まらない文章でしっかりしていて、そこでグッと風景が出てくることで引き締まって、土地の感じが立ち上がってきて緊迫したシーンになるのがすごい好きなんです。」
「もう(小説家のキャリアが)10年になるので、締めるところ、面白がるところ、さっと流したほうがいいところ(のメリハリ)が前よりも上手くなったなと思います。ずっと直して文章を濃密にすれば良いわけではない。」(真藤さん)
「沖縄の方の反響はどうでした?」(吾郎)
「沖縄の方は『宝島』が沖縄の小説だってしばらくは知らなかったんですよね。今直木賞で追い風が、すごい爆風が吹いてて、“沖縄の外の人間が沖縄の話をどう書いたか知りたい”と手を伸ばしてくださってるみたいですね。」
沖縄の方の反響を知りたい、と真藤さん。
「特にその世代を生きてきたの方のね。」(吾郎)

「宝島」の主要人物はオンちゃん、グスク、レイの3人。1952年の夏、彼らは極東最大の米軍基地「キャンプ・カデナ」に侵入し物資の持ち出しに成功しますが米軍に見つかり生死をかけた逃走劇となります。
物語が大きく動き出す部分を吾郎と外山さんが朗読。

「あがあっ」
そこでオンちゃんがうなった。
撃たれた、オンちゃんが撃たれた!
立ち上がって方角を確かめていたところで、飛んできた銃弾がその肩口をかすめた。
オンちゃんは荷台にくずおれる。
(中略)
戦果アギヤーたちは荷台から放り出された。
「グスク、まだ踏ん張れそうね?」
肩の銃創で血だらけになり、走る車から投げ出され、ぼろぼろになりながらもオンちゃんは立ち上がって、声をかけてきた。
その不屈ぶりはどこから来るのか、それはコザの神秘だった。驚異の源だった。
(中略)
数方向からライトを照らされて、戦果アギヤーたちは散りぢりに逃げだした。
木々が縫い目のように点々と生えている一帯を、移動するうちに眩暈が強くなり、耳鳴りまでひどくなって、だれがついてきていて、どこをどう走っているのかも見当がつかなくなっていた。
そうこうするうちにグスクとレイははたと気がつかされた。
オンちゃんの声がしない。
親友(イイドゥシ)の、兄(ヤッチー)の姿がどこにも見当たらない。
ついさっきまですぐそばを走っていたのに。
夜陰や木立を渡りつぐうちに、オンちゃんとも他の仲間ともはぐれて、グスクとレイはふたりきりになっていた。

「すごいんですよね、このオンちゃんが。」(外山さん)
「戦後の日本というのは英雄を探すような時代だったなあ、と思います。スクラップアンドビルドで敗戦から立ち上がっていく中で英雄像を追いかけていく・・・戦時中の英雄の面影を追うのか、新しい英雄の姿を探していくのか、という時代だったと思うので『英雄の不在』を物語の一本の軸にしたかったんです。」(真藤さん)
「そうかぁ・・・」真藤さんの力強い言葉に、吾郎はうなりました。
3年かけて「宝島」を生み出した真藤さんの執筆部屋の写真を拝見すると・・・PCの周りにも机の周りにも本がうずたかく積まれています。ここはご自宅の近くに借りている仕事場だそうです。会社員の上田さんや町屋さんと違い、ルーティーンは決まっていないとか。
「日によって夜型になったりとか、三度寝することもあったりとか。朝型が良いというのは寝起きが良いからじゃないですか、頭が冴えて。だから寝起きの状態を何度も作り出したいから何度も寝る。」(真藤さん)
「フル充電されてますもんね。」(吾郎)「なるほど!」(外山さん)

今回はお三方の執筆部屋だけでなく、本棚の写真も見せて頂きました。
町屋さんは本棚から本があふれ、外に積まれている状態。
「これはダメじゃないですか。整理したいですね、整列フェチの僕としては。」と吾郎に突っ込まれてしまいました。
上田さんの本棚はきちんと整理され、大好きだというドストエフスキー、夏目漱石、シェイクスピアの文庫本がまとめられています。
「その隣に『タッチ』もありますね。」と吾郎がめざとく見つけました。「タッチ」も大好きだそうです。
真藤さんの本棚には本の他に大好きな映画のDVDもたくさん収められています。
「僕の場合映画が主食だったので。映画は僕の血肉、滋養ですから。」
真藤さん、吾郎と話が合いそうですね。

最後に今後について。
「何か新しい物を探さないといけないんですが、さっきの本棚みたいに心の中がまだ整理できてないので、少し落ち着いた後に自分の新たなものが見つかったらしっかり書いていきたいです。」(町屋さん)
「今までいろんなジャンルで書いてきたので、それぞれのジャンルで代表作を書いていきたいですね。」(真藤さん)
「一昨年から去年にかけて連載した物が700枚くらいになっていて今単行本にしているので、まずはそれですね。『ニムロッド』と並行して書いていたので、モチーフがリンクしているんです。だから『ニムロッド』を読んで頂いた方には是非読んで頂きたいです。『キュー』というんですけど・・・。宣伝です(笑)。」(上田さん)

AD山田くんの消しゴムはんこはお三方の似顔絵。とてもよく似ていました。

2週間にわたった「芥川賞・直木賞受賞作家SP」、本当に見応えがありました。お忙しい中お互いの作品を読んできてくださってテレビで合評会をして、執筆部屋や本棚の写真も撮ってきてくださって、こんな贅沢な番組は他にないと思います。本当に続けて欲しいです。


拍手ありがとうございます

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