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美と狂気の女優道 (後編) (「ゴロウ・デラックス」 4/27)

  • 2018/04/30(月) 23:52:23

先週に引き続きゲストは時代劇研究家の春日太一さんと女優の岩下志麻さんです。

課題図書 : 「美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道」 春日太一

岩下志麻さんの狂気の女優道第2幕は、時代劇研究家春日太一さんが衝撃を受けた岩下さんの映画ベスト3を紹介します。

【悪霊島】(1981年)
フリップが出された瞬間岩下さんが「ふふふ…」と笑いました。春日さんの言いたいことがもう分かっているようです。
「悪霊島」は金田一耕助シリーズの中の一作。鹿賀丈史さんが金田一を演じました。春日さんが吾郎の金田一にも触れて下さったのが有難かったです。
「悪霊島という島があり、そこへ行った男達がどんどん消えていく。なにがあるんだろう?ということですが、そこに岩下さん演じる巴御寮人という女性がいて…ここにある神社の娘さんなんですが、それとはまた別にもう一人、男性を見ると見境がなくなる(=色情狂)ふぶきという姉がいる。この二役を岩下さんが演じているんですが、作品の大きなトリックを明かしてしまいますと、実はこの二役が二役ではなかった。」(春日さん)「人格が…」(吾郎)
「おしとやかな巴御寮人の裏の顔がふぶきだったという…。一人の人間だったわけですが、それが明らかになる場面があるんですね。それが…。」と言いながら春日さんはフリップの紙をめくりました。

「アノ体当たり演技は自らの提案だった!」

「とんでもないお芝居をここでされてるんですね。」(春日さん)
「そのシーン、気になりますね。」(外山さん)
「今回のインタビューの中で僕が最も驚いたエピソードだったかも知れないです。」(春日さん)実際のシーンを見ると…
巴御寮人が真っ赤な口紅を塗ると徐々にふぶきの人格が表われ、なんと自慰を始めるのです!
VTRを見る吾郎も外山さんも引き込まれています。
「ふふ…怖いですか?」岩下さんは吾郎に言いました。吾郎は一瞬言葉を探しましたが
「いや、本当に引き込まれてしまう、本当に美しい、ね…。でもこの体当たりな演技をご自身で提案された?」と訊きました。
「ええ。やはり“巴御寮人”から“ふぶき”に変わる時に(何か一つ欲しいな)と思って。口紅を塗るだけでは“ふぶき”に変わりきれない何かがあったので、自分でフッと閃いて監督に提案したんです。そしたら『ちょっと考えさせて欲しい』ということで(笑)。1~2日経ってから『了解しました』と。それであのシーンを入れて頂きました。」(岩下さん)「はぁ…」(外山さん)
「監督も『ちょっと考えさせてくれ』ってなりますよね。発想になかったと思うんですよね。」(吾郎)
「それと、全体像を見てますからね、監督さんは。それにああいうシーンが入っていいかどうかという事もあったのかな、と思いますけど。」(岩下さん)
「そうか、(篠田正浩さんは)ご主人であり監督であり…ですものね。」(外山さん)
「ええ、そうですね。」岩下さんは悠然と微笑みました(これが女優の貫禄というものでしょうか)。
「これはさすがに春日さんも驚かれたんじゃないですか?」(吾郎)
「驚きましたね。普通女優さんって自分を綺麗に見せたいというか…、映像だけじゃなくイメージとして清純派的に守っていきたいという人が結構多いわけです。だからこういうアイディアを監督から出されても断る事の方が多いと思うんですけど、逆に自ら役柄として必要かどうかをまず第一に考えて提案されるという…。“役者”としてすごいことだな、と。演技や役柄や作品を第一に考えている方だという事がよく分かるエピソードですね。」(春日さん)
「悪霊島をテレビで再放送した時に、うちに臨時で家政婦さんが来ていたんですよ。それでこれを夜観て翌日私の顔を見たら『キャーッ!』って(笑)。それで『申し訳ないけど今日で辞めさせて頂きます』って。」(岩下さん)
「ホントですか!?」(吾郎)
「私が精神分裂(二重人格?)みたいな人に見えちゃったらしいんですね。それで怖くなっちゃったらしくて。」(岩下さん)
「それって最高の褒め言葉というか…スゴイ影響力ですよ。」(吾郎)
「でも私、困っちゃったんだけど…。」
と言う岩下さんが可愛らしかったです。

台本を徹底的に読み込み役作りをする岩下さんですが、時には台本通りに行かないこともあります。そんな作品が
【疑惑】(1982年)
「ある事故が起きて富豪の男性が死んでしまって、これはひょっとしたら保険金目当ての殺人ではないかとマスコミがどんどんどんどん殺到してくるわけですね。この女性を桃井かおりさんがやっているんですけど、ワイドショー映えするような悪い感じの、毒を吐くような女性なんですよね。で、誰も弁護を引き受けようとしない。そこで岩下さん演じるエリート弁護士が引き受けるんですけど…。普通の弁護士と容疑者との関係でしたら弁護士が優しく接して段々心ほだされていくとかになるんですけど、最後までこの両者が仲が悪いままなんですよ。ここでの女優同士の演技のぶつかり合いを含めてこの二人の緊張感が面白いんです。」と春日解説。この作品で春日さんが驚いたポイントは…

「唐突なアドリブすら心から楽しんでいた!」

「桃井かおりさんは現場でどんどんアドリブを仕掛けていく人で、ある種作品の雰囲気すら変えてしまうような所があるんですね。結果的にそれが良いものになることも多いんですけど、受ける側の共演者が大変ではあるんです、それをどう返してどう新しいお芝居を組み立てるか考えなきゃいけない。ここで岩下さんが実際に桃井さんのアドリブを受けるんですけど、アドリブに対して全く動じない。」と春日さんの解説を聞いてから実際のシーンを観てみると…
弁護士の接見シーンで、桃井さんが一方的にまくし立てそれを岩下さんは冷静に聞いています。岩下さんの表情に特に大きな変化は見られません。
「えぇ?…これアドリブ?」吾郎もどの台詞がアドリブか分からなかったようです。
「『あんたの顔嫌い』(というセリフ)は完全にアドリブでした。」(岩下さん)
「そうか…『あんたの顔嫌いよ』ってけしかけるような顔してましたもんね。」(吾郎)
「ちゃんと(アドリブを)受けている岩下さんの表情を撮ってるのが野村芳太郎監督の上手いところですよね。アドリブを受けてどういう表情をしてるかという所も。」(春日さん)
「瞬き一つなく!」(吾郎)
「逆に『文句あるか!』って顔をされるじゃないですか。ここのやり取りの緊張感が…」(春日さん)「面白いですよね。」(吾郎)
「(役柄が)上目線なんですよね、エリート意識が強くて。“常に上からものを言っている、相手が何を言おうが”という役作りをしたので、嫌な女と嫌な女のぶつかり合いだと思いますけどね。」(岩下さん)
「桃井さんは(事前に)『こういう事を言います』とかは…?」(外山さん)
「ではなくて、前日に考えてらして、当日突然セリフが全部変わってるんです。」(岩下さん)
「岩下さんにアドリブはダメじゃないですか。」と吾郎。完全に役を作り上げてくる女優さんですものね。
「私は自分で全然アドリブを言えないんですよね。だから色々新しいセリフをおっしゃるので『うわーっ、すごいセリフ考えてきた!』と思って逆に刺激になって、随分勉強になりましたね。」(岩下さん)
「そうか、桃井さんのアドリブはその場で出たアドリブではなくて、考えてきたアドリブだから、アドリブの質が違いますね。」(吾郎)
「アドリブで(話が)いろんな所に行ったら大変ですよね。」(外山さん)
「それはそれこそカメラさんがいて監督がいて、カット割りまで考えているのに、アドリブを入れていくのは基本的にはダメだと僕は思いますけどね。受ける方だって『あっアドリブ言ってきた』って一瞬そっちの感情になっちゃうじゃないですか。…って別に桃井さんの事言ってる訳じゃないですけど(笑)。僕はアドリブする人はあまり好きじゃないです。基本ダメだと思います。」(吾郎)
「じゃアドリブはあまりおやりにならない?」(岩下さん)
「絶対やらないです。」(吾郎)「やっぱりね」(岩下さん)
「ただ、お芝居が終わってもなかなかカットをかけない監督さんがいらっしゃるじゃないですか。その場合は繋げなきゃいけないのかなと思ってカット尻であった気持を繋げていくことはします。」と熱っぽく語った後吾郎は
「…正解ですか?」と隣の岩下さんに確認を求めました。
「そう…ですね。私もそっちですね、ええ。」(岩下さん)
ご自身はアドリブが苦手でも、相手の役者さんのアドリブは楽しんでしまう岩下さん、さすがです。

と、岩下さんの演技を観た吾郎から、意外な思い出話が飛び出しました。
「僕、自分がデビュー当時に岩下さんのことをスタッフに言われたの、今不意に思い出した。僕ロケやってて眩しくて、まだ素人みたいなものだったので、瞬きをすごいしちゃってたんですよ。そしたら『岩下志麻さんは瞬きしないんだぞ!』って一喝…、照明さんか監督さんかに。『岩下さんは瞬きするなと言ったら永遠に瞬きしないんだ!役者さんはそういうのをコントロールできなきゃいけないんだ!』と教えて頂いたのを、今瞬きを全くしない岩下さんの表情を見て、急に30年前の事が蘇ってきました。」
興味深そうに聞いていた外山さんが
「本当なんですか?」と岩下さんに訊きました。
「私は瞬きずっとしないで大丈夫。」(岩下さん)
「そのイメージが割とあるじゃないですか、極妻でも。」(吾郎)
「芝居中は意識して瞬きを入れる事もあります。」(岩下さん)
「意識して瞬きを入れるんですか?!」と驚く外山さんに
「瞬きも芝居になるじゃないですか。」(吾郎)
「意味が生まれちゃうんですね。その瞬きに対して感情的な。」(春日さん)
と二人からフォローが入りました。
「14歳の時の事今思い出した!なんか嬉しいです。」と吾郎は懐かしそうでした。

最後に紹介するのは禁断の母子愛を描いた衝撃作。
【魔の刻】(1985年)
「岩下さんが受験生を持った母親役で受験生役が坂上忍さん。息子が受験に失敗してしまって落ち込んでいるのを慰めるために自分の体を差し出してしまう、そういう母親の役です。…これは男性と女性とでは見え方が変わってくるんじゃないかと…男性からすると見るのが怖いというか…」(春日さん)
「『ゾッとした』っておっしゃってましたね。」岩下さんはそう言ってハハハと笑いました。
実際の映像を観てみましたが…あまりに情念が激しすぎて、VTRが明けてもスタジオの四人から言葉が出ない。吾郎が戸惑っている様子を岩下さんは悪戯っぽい目で見ています。
「これの何に驚いたかというとですね…」と春日さんはフリップをめくりました。

「岩下さんが熱望した企画だった!」

「インタビューをさせて頂いた中で、先ほどの『悪霊島』のエピソードもそうなんですが、岩下さんは常軌とは異なる役柄・芝居に対して物凄く強い熱意をお持ちで、ご自身から飛び込んでいく、演じる事に高いモチベーションを持っている方だという事が伝わってきたので、(インタビューの)終盤にこのエピソードを伺った時に驚く一方で『あぁなるほど!』と。確かに岩下さんならば自ら望んでやられるというのも分からないではないなとは思ったんです。でも企画の内容が内容ですので、かなり私の中で驚きました。」春日さんは夢中になって語りました。
「そうですね、当時はエキセントリックな役がやりたくてやりたくて。新聞の見出しを見たら『魔の刻』と書いてあって『あっ、これやりたい!』と思って、すぐマネージャーさんに原作の方にお電話してもらって、『映画化するときは是非やらせてください』とお願いして。それでやっと実現した映画なんです。」(岩下さん)
「エキセントリックな役をやりたいというのは、普段の自分や日常とは違うものを、ということですか?」吾郎が岩下さんを真っ直ぐ見て訊きました。
「そうです。私はいつも『日常から飛びたい』、役を演じる事で『どこかへ飛びたい』、そういう思いが演じる時はあるんですね。だからすごい飛べる役を探してたんです。」(岩下さん)
「でも…『狂気の演技を自然に演じる』って難しい事だと思うんですけど、岩下さんがいつも思ってる事…秘訣というのは?」(吾郎)
「そうですねぇ…狂気を狂気と思って演じないでいかに普通に演じるか。普通に演じてそれが狂気に見えれば成功、という考え方かな。」(岩下さん)
「なるほど。それが出来れば一番…。驚かせようと思ってわざとおどろおどろしい表情を作るっていう事では…」(吾郎)
「ないですね、ええ。」(岩下さん)
それを聞いていた春日さんが補足しました。
「『鬼畜』の鬼嫁役のエピソードを伺った時も、あの女性を狂気の女性とか怖い女性じゃなくて『悲しい人間である』と岩下さんは捉えたんです。そういう事だと思うんです。一人の人間として捉えてその心情を追いかけてった結果、一般の道から離れてしまったんだという。その点精神の構造をちゃんと把握して一人の人間として見つめているからこそ、狂気を何か飛び跳ねたような特別のものとして演じない。僕らと地続きにその狂気が存在しているかも知れない。そのリアリティを芝居から感じる事が出来る。」
「なるほどね。勉強になりますね。その人間を演じていれば狂気になるわけですから。そこに描かれてるものがあるから。」吾郎が目を輝かせました。
狂気の演技について岩下さんと吾郎の意見が一致した瞬間、私の心が震えました。
ここの対話が今回のゴロデラの中で一番良かったかも知れません。

番組はエンディングへ。岩下さんが今後演じてみたい作品・役柄は?
「『サンセット大通り』。女優が過去の栄光にしがみついて最終的に狂気になる。女優のなれの果て、そんなものをやってみたいなと思っています。」
「ここのお二人でやったらピッタリだと思いますね。」と春日さんが言うと
「ああ、ピッタリね!あの役ね!」と岩下さんも声を上げました。
「相手役の男の記者がいるんですよ。」と春日さん。
「ピッタリね、言われてみれば。」岩下さんは吾郎を見て改めて言いました。
「光栄ですね。いつかご一緒させて下さい。その時は僕の事を思い出して下さい。14歳の時の僕が喜ぶので。」吾郎は懇願しました。
「はい。でも最後は狂気ですから。」と岩下さんは微笑みました。
確かに「サンセット大通り」のラストはとても怖いです。これを岩下さんと吾郎がやったらどんなに素敵になるか!
「また夢が増えましたね。」と吾郎。この夢は是非実現して欲しいです!

今回は消しゴムはんこを披露するAD山田くんも緊張の面持ちでした。

今回は吾郎と岩下さんがお芝居について話す場面がたくさんあって嬉しかったです。
「サンセット大通り」での共演が近いうちに叶いますように。


拍手ありがとうございます

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